ではようやく出来上がった色掛けのセーターのエリをご覧ください。
読者様には「あぁ、色掛けすると、こんなに色がつくんだぁ・・・」ぐらいの感想かも知れませんが、ここまで真っ黒にするには、相当の時間と根気を費やして、いわば「根性で黒くした」と言える状態なのです。 染めればもっと楽にこの状態に出来ましたが、今回はこれまでご説明してきたように諸般の事情で色掛け一本でやらねばならなかったことは、非常につらいところでした。 でもこうして出来上がってみると、してきた苦労が報われた、と達成感ひとしおです。
早速ご依頼主にもお見せしたところ、「ありがとうございます。 発送お願い致します。」と了承を頂けたので、早速ご返送して、ようやく作業完了となりました。
さて、ここまで原因について言及はしていませんでしたが、衣類というものは裏側に「洗い方表示」という布切れがぬいつけられていて、着用年数に比例してその布切れが汚れてきます。 その汚れ具合で、「購入して1年前後」「3年前後」「5年以上」といった判断が大体出来るものです。 その点で言って、今回のセーターは5年以上の部類でした。 というのも洗い方表示の表記がかすれて読めなくなっていたぐらいだったからです。 そうすると、エリの表側が黒から紺色に変わってしまったのも、「日光による退色(色が褪せること)」が原因に思えてなりません。 それにお客様が気付かずに着用していて、ある時クリーニングに出した後、エリの裏側を見たら表側と全然色が違うことに気づき、「これはクリーニングのやり方が悪かったからだ!」と決めつけてクレームに発展したのではないか・・・? と思えてならないのです。 そう思う根拠はドライクリーニングの性格からして、衣類を洗濯機の中に入れて、スタートボタンを押すだけなので、セーターのエリの表面だけの色を変色させて、裏側は変色させない、という洗い方は出来ないことにあります。
そうは言っても、事実、お客様が「洗う前はエリは黒かった!」と断言されてしまうと、クリーニング業者としては、洗う前の色の違いまで把握していませんから、「すみません・・・ 直してみます・・・」といった対応をとらざるを得ないのが現状です。 せめてトーア復元研究所の技術で弁償しないで済むように出来れば、私たちとしても大変やり甲斐を感じる次第です。
ではまた次回。 別のご依頼品をご紹介いたします。