モンクレールのプリント剥離を直す
ご依頼主は個人の方
今回は都内の個人のご依頼主からのご相談でした。最初、ご相談はメールで来ましたが、内容はおなじみ「モンクレールの剥がれたプリントを直して欲しい」というものでした。 もうトーア復元研究所では、このモンクレールのプリントを100点以上直してきましたが、モンクレールも毎年の様に新しいデザインが出るので、直したデザインもいろいろなプリントがありました。
そして届いたご依頼品がこちらです。
ではそのご依頼品の中身をご覧にいれましょう。
剥離状態を確認する
こちらがプリントの剥離状態です。 プリントのところどころのインクが無くなっています。 プリントの剥離と言っても、プリントの種類によっていくつかの特徴があります。 ちょっとその種類をご紹介しましょう。
だんだん薄くなっていく場合
これはシルクスクリーンのような染料を使うプリントや、昇華プリントのように生地に浸み込んでいる状態で、表面を強く摩擦するなどして生地の状態が変わってしまったときに起こります。
シールのようにペリッと剥がれる場合
これはラバーシートやDTFのようにシート状のものに印刷したプリントで起こる剥がれ方です。 主にシートを接着している接着剤の劣化や粘性の低下で起こります。
溶けていくように周りににじむ場合
こちらもシルクスクリーンの一部の染料を用いたものに起こるもので、こういった場合、新しいプリントをする前に完全に溶け出した染料を取らなければならないので、非常に厄介です。
粉のように細かくなって取れていく場合
こちらは一部の染料で出来たプリントですが、古くなって接着剤の接着性だけでなくプリントシートの柔軟性も無くなってしまった場合に発生する状態です。 こちらは溶ける場合の比べると拡大に除去はしやすいです。
プリントの生地をほどく
まずプリントされた部分の生地をほどいて、布一枚の状態にします。 この作業がかなりのコスト増となるのですが、避けることは出来ません。 その理由がこちら。
データを作成する
次の工程は新しくプリントするためのデータ作成です。 これにはご依頼品の画像データをスキャンして行います。 詳しくはこちら。データ作成について、どのようなデータがどんなプリントで復元可能か、具体的な例をいくつかご紹介しましょう。
写真のようなプリント
これはモンクレールのプリントで「MとWの文字の中央に地球の写真」があしらわれているもののように、写真データがプリントに採用されているケースです。
多色づかいのプリント
プリントの種類の中には、決まった色しかないものもあれば、ユーザーの思った色(近似色)を再現できるものもあります。 多くの色数を表現しているプリントであれば、データを作成するときに、その色がプリントした時にどのように出力されるかを考えて作成せねばなりません。 逆に言えば、再現出来ない色も存在し、その場合は適宜似た色に変換する作業が必要となります。
金やメタルなどのプリント
こういったプリントはデータ作成とは別に、素材にいろいろなメーカーのものの特徴があり、データはそっくりに作れてもプリントにした段階で雰囲気が変わってしまうことがあります。
新しいプリントがされた生地が到着
こちらが新しくプリントした生地です。 あとは元通り縫い直すだけです。
プリント生地の縫い直しで難しい点
あとは、元通りに縫い直すだけ、なのですが、その作業が困難を極めます。 問題はこのモンクレールのダウンジャンパーのデザインにあります。 詳しくはこちら。
縫い直しが難しい理由
こちらの部分が縫い直しを極端に難しくしている原因です。 毎回、縫製担当泣かせのデザインですが、今回も何とか無事に縫い直してくれました。
プリントの出来上がり
こちらが完成したモンクレールのジャンパーです。 黒地に真っ白い文字がとても良く映える出来上がりになりました。さて、今回ご紹介したモンクレールのプリント直しは、ラバープリントという種類のプリント素材を使用しています。 その外にもプリントにはいくつもの種類があります。 代表的なものをご紹介しましょう。
ラバープリント
今回ご紹介したので、実物もご覧頂いたと思います。 プリントとしては比較的耐久性が高く、はっきりとした発色性があり、ロゴなどのデザインにはとても映えます。 デメリットとしては既成色の30種類程度から選ぶようになり、基本無地のものしかありません。
DTF
これは「ダイレクト トゥ フィルム」の略で、特殊なシートにインクでプリントの造形を描き、それを熱で衣類の生地に転写してプリントを作る技術です。 フルカラーで微細なイラストもプリントとして作成できるのですが、多少耐久性が乏しいのがデメリットです。
シルクスクリーン
これは専用の染料を版を通して衣類に直接塗り付ける方法で、版の作成にはコストがかかりますが、増産は非常に安価に出来る方法です。 逆に言えば「1点もの」を作るには不向きと言えます。 こちらは色のバリエーションは染料の種類によりますが、かなり豊富な種類があります。
昇華プリント
このプリントはその他のプリントが染料やシートなどを衣類の生地表面に貼り付けたり、吹き付けたりするのと根本的に異なり、特殊な方法で染料を生地の中に封入してしまう方式のプリントです。 そのためプリントの耐久性が飛躍的に高まり長期間プリントが残る方式です。 一方、生地が白のポリエステルにほぼ限定されるというデメリットもあります。
ラメプリント
きらびやかなラメを貼り付けたプリントです。 見た目が大変豪華になりますが、着用やクリーニングによって表面のラメが剥脱することがあるのがデメリットです。
箔プリント
金箔・銀箔の箔プリントは見た目が豪華絢爛で衣類のグレードをアップしてくれます。 ですが、こちらもデメリットは着用やクリーニングで箔の剥離や薬品によって変色が起こることがあるので、注意が必要です。
発泡プリント
発泡スチロールのようにふくらんだ見た目にできるプリントです。 立体感があることで大変印象深い表現が可能ですが、こちらも着用やクリーニングで発泡がつぶれたり、表面の印刷が取れたり、ということが起こります。