剥がれたプリントのお直し
ご依頼主は北海道のクリーニング屋さん
今回はの北海道のクリーニング屋さんからのご相談でした。 いつもながら、本州以外のご依頼主からのご相談にはテンションが上がります(笑)。 「洗ったらジャンパーのプリントが剝がれてしまったんですが、直りますか?」というお電話の後、ご依頼品が到着しました。
開けてみましょう。
なんと、ジャンパーの裏地側にプリントが施されています。これでは洗う前にプリントが貼ってあることすら見逃し兼ねません。 中には丁寧なお手紙も同封されていました。 以前、この業者さんにはバレンシアガの衣類に貼ってあったプリントを直したこともありましたので、その時のトーア復元研究所の仕上がりを信頼して再度ご相談下さったようです。
では、このジャンパーの裏地に貼ってあったプリントを直す工程をご紹介いたします。
プリントを直すに当たって参考になること
今回依頼されたプリントには一文字だけが残っていました。 これはとてもラッキーなことです。 なぜ何故かと言うと、こちらをご覧ください。 さて、逆にプリントがすべて剥がれてしまっていたり、その他、想定外のこととしてどんなケースがあるか、いくつかご紹介しましょう。
プリントでなく塗装だった
プリントは一般的に樹脂シートから文字や形を切り取って貼り付けた「シール状」のものですが、同じに見えて塗料を目的の形状に塗り付ける塗装とは全然違います。 塗装の修理は全く別の作業となるので、不可能なこともあります。
プリントが完全に剥がれて元の状態が分からない
この「元のプリントが完全に取れてしまった」というのもよくあるケースです。 この場合、デザインや色ならインターネット上で同じものが載っていれば、それを参考に作ることも出来ますが、プリントの素材は写真ではほとんど分からないので、出来上がったものが「これは元と違う!」と言われてしまう可能性があります。
プリントが剥がれるときにノリが周囲に付着してしまっている
プリントは接着樹脂で付いていることが多いですが、それが周囲にくっついてしまっていると、たとえプリントを直してもそのノリの跡が残ってしまい、みっともなくて着用出来ません。 こういう場合、当然、ノリを除去する工程が増えますが、瞬間接着剤のたぐいは除去がものすごく難しく、取れないこともあります。
プリントの染料が周囲に付着してしまっている
プリントにはいろいろな素材が使われていますが、中には染料や顔料を使用しているものもあり、それらはスレや熱で剥離する過程で溶けて周囲にくっつくことがあります。 その周囲に付いた染料・顔料も除去するのが困難なものがあります。
プリントを直すこと以外にも大問題発覚!?
今回、新しくプリントを作るだけでなく、別の問題が発生しました。 こちらがその内容ですが、ご依頼主はこのことに気が付いていなかったので、そのことが今回の仕事をより難しくすることになったのです。
剥がれかけたプリントを全て剥がす
まずは、この取れかかった「R」の文字を完全に取ってしまいましょう。 それから残ったノリを染み抜きで取るのです。 詳しい工程はこちら。
器具で取れない部分を剥がすには・・・
そして最も強力なプリント剥がし方法がこちら。
データの作成
その後の工程が「新しいプリントを作るためのデータ作成」です。 写真付きの詳しい解説はこちら。データ作成において、難しいケースもあります。 いくつかをご紹介しましょう。
元のプリントが剥がれて最初の状態が分からない
元のプリントの一部が剥がれてしまうと、剥がれる前の状態が分からないのでトーア復元研究所ではそのような場合はネットに記載されている同じメーカーのロゴを調べます。 ですが時にはかなり古いものや一般に販売されていないものもあり、そういう場合は元通りのプリントが作成出来ず、元のデータを推測して形にするよりありません。
当初のプリントの色が分からない
こちらも上記に似たケースですが、プリントが剥がれてしまって最初の状態の色が分からないケースです。 特に金・銀・ラメなどは最初の状態を見ないで想像で作ると、全然違ったものになっていた、ということもあるので厄介です。
精巧な色合いが求められる画像
単色ならまだ目立たないのですが、写真などのフルカラーのデータだと、色合いや色の濃さが重要になりますが、剥がれかけているプリントはそれまで日光にさらされたり洗濯したり・・・といった環境下にあったものなので、日焼けなどを起こしている場合が多く、「日焼けした色」ではなく、元の色に似せるための手本となるものが無いので、再現は大変なケースが多いです。
新しくプリントされたジャンパーが到着
新しいプリントは他県の部署が行っているので、往復は郵送になります。 そして戻ってきたのがこちら。 どのような仕上がりになっているでしょうか・・・
ちなみに、現在ではトーア復元研究所の東京本部内にプリント設備を常設しましたので、この当時に比べると飛躍的に納期も短く、コストも安くなりました。 一方、プリント素材というものは、大変種類が多く、また素材ごとに機械も異なることが多いです。 トーア復元研究所の所内で出来るプリントは次のものです。
ラバーシート
単色で比較的強度が強いプリントです。 ラバーを原料としていますので、色は無地で既定色の10通り程度しか無いのがデメリットです。
トナープリント
フルカラーでしかも微細なデザインのプリントも特異なプリント方法です。 ラバーシートに比べ、少々耐久性が劣るのがデメリットですが、写真はもちろん、非常にデザイン性に富んだプリント方法です。
プリント直しの完成
こちらが新しくプリントをやり直したところです。 真っ黒な生地に真っ白い文字がとてもよく映える素晴らしい出来上がりになりました。