時は年の瀬も迫った12/18。 夜9時近くに帰社した私はメールチェックすると、昼間非常に横柄だったご依頼主からのメールが来ていました。 昼間、けっこう上から目線だったご依頼主のメールに少し緊張しながら内容を見てみたところ、意外にとても謙虚な内容だったので驚きました。 その本文は以下のようなものでした。
「
池森さん。
いろいろ、急なことで、申し訳ありません。
東村山〇〇〇に住んでいました〇〇です。
先日日曜、10日夜7時頃隣家出火し、
(女房、娘は、コンサートで、9時頃帰宅)
鎮火に、5時間かかり、
自宅は、二階半焼、
一階、ほぼ、全体水浸し、煤だらけの状況から、
いちばん大事な、お袋自製の衣類を、
女房分(ほぼ、煤は被っていない=階下や、焼けていない二階の息子の部屋の箪笥内な
ど)
と、焼けた部屋の、僕の洋服が、主です、
その他、娘のもの(部屋は焼けなかった)、着物(焼けた部屋の箪笥内)、
その他、さまざまです。
ほとんどの衣服は、洋裁をやっていた母親や、
縫った、一点ものです。これを、どうしても、修復したい、と思っています。
簡単に、「これは、こうこうで、無理」と言われても、
条件、ケース、状態によって、
「こうこう、これはやってくれ」
という、発注は、します。
一般の方々の、「どこそこで、買えば、また購える」ものとは、
まったく、違う、という認識を、ぜひ、今後、修復にかかわる全スタッフに、伝えてく
ださい。
今日、北原さんが届けた段ボール内衣装は、
基本的には、すべて、復旧を望んでいます。
優先順位で、段ボールに「1」とマジックで描いてあるもの、3、4箱は、
至急、復元の検討に入って、作業初めてください。
25日に伺って、そこで、今後の方針を、
ご相談しながら、すすめます。
4時には、行っています。
よろしく、どうぞ。
〇〇」
このメールを読んで、私は大変ショックを受けました。 昼間、横柄な態度を取っていたご依頼主は大変なご不幸に遭われていて、メールには記載がありませんでしたが、お母さま・・・もしかしたら他界されたのかも知れないお母さまの、形見かも知れない大事な衣類の復元をトーア復元研究所だけを頼りに送ってくれたのでした。
「どこそこで、買えば、また購える」ものとは、まったく、違う
そうです。 トーア復元研究所では、まさにそういうご依頼品を復元することを最大の信条として毎日、復元作業に臨んでいるのです。このメールを読むまで心配していた私は、今回のご依頼を引き受けて良かった、と心から思ったのでした。