ではファスナーを縫い直して、ようやく全行程完了です。
改めて細部をよく見てみましょう。
この最終出来上がりをじっくり見て感慨にふけるのが、プリント直しの仕事の一番の楽しみです。 何しろプリントが新品になっただけで、バレンシアのジャンパー全体が新品になったように見えるので、とても達成感があるのです。 今回の北海道のご依頼主も、きっと感心してしばらく見入ってしまうのではないか、と思います(笑)。
20年以上前は、こういったプリントを貼り付けた衣類というものは、得てして安価な衣類(それこそ千円から数千円)にのみ見られた装飾でしたので、プリントが剥がれたからといって直していたら販売価格の何倍にもなってしまう状況でした。 それが昨今、プリント製品のデザイン性の高さからか、今回のようなブランド品にもプリント製品が見られるようになってきました。 今日などは、個人のお客様から「クリーニングに出したら、ダウンジャンパーのプリントが剥がれてしまったが、直せるか?」というお電話があり、写真をメールしてもらったところ、モンクレールとヴァレンチノのコラボ品。 新品だと20万円以上するものらしいのです。 おおよその修理代金をお知らせしましたが、クリーニング屋さんに保証を依頼することにする、とおっしゃっていました。
正直、私も業界の一員として思うのは、販売価格が高いものは、もともと寿命が短いプリントを貼り付けて販売するのは問題だと思います。 購入されたお客様は、その代金に見合った価値を見出している筈ですが、だからと言ってプリント部分の寿命が半永久的とは到底言えないものなので、剥がれてしまったら代金の価値はほとんど無くなってしまうからです。 そしてさらにそれで割を食うのは、寿命とは言え、剥がれた直接の原因はクリーニングということが非常に多いので、「クリーニングして剥がれたなら、弁償して欲しい」とお客様に訴えられる結果になり勝ちです。 結果、クリーニング業界としては、プリントが一部でもある衣類に対しては「剥がれても保証出来ません」と事前に説明して自衛するよりありません。 でもこれって、相当な高額品にプリントを貼り付けるメーカーの製品のために、「ババの取らせ合い」になっていると思えてならないのです。 そして、「剥がれても保証できません」という事前説明をうっかり忘れたケースで、剥がれたものがトーア復元研究所に送られてくる・・・ と何とも悲しい状況を生んでいるのが実情です。 トーア復元研究所として、それらを少しでも安価に直してお返しする、ということしか出来ないことも事実です。
さて、愚痴が長くなってしまったので、この辺で・・・次回はまた別のご依頼品をご紹介いたします。