剥がれたプリントを直す
ご依頼主は栃木県の個人の方
今回は栃木県の個人のご依頼主からのご相談でした。 「モンクレールのダウンジャンパーのフードに付いていたプリントが剥がれてしまったんですが、直りますか?」というお電話があり、お聞きしたところ、これまで何度もトーア復元研究所で直してきたモンクレールのプリント直しと同じものだったので、「出来ますよ」とお答えしたところ、しばらくして、そのご依頼品が到着しました。
開けてみましょう。
中から出てきたのは、白いモンクレールのダウンジャンパー。 では問題のプリント部分はご覧に入れましょう。
プリント剥離状態の確認
こちらが実際のプリント文字の剥離状態です。 典型的な着用が原因の寿命によるものです。 ではプリントの剥がれ方には、どのようなケースがあるのか? それについて代表的なものをご紹介しましょう。
着用時に摩擦で剥がれてしまうケース
脇の下や、エリ周りなど、着用中によく「擦れる」部分は、プリントの糊が劣化して剥がれやすいです。 こういう剥がれ方の特徴は、剥がれている部分と「全く剥がれていない部分」の差が極端なことです。
洗い方・乾燥の仕方が不適切なケース
衣類に付いているプリントのほとんどは、「ドライクリーニング禁止」「タンブラー乾燥禁止」になっています。 そこで誤ってこれらを行うと剥がれてくる危険が高いのですが、その際の剥がれ方は「ほぼ全ての位置が同じように剥がれてくる」という特徴があります。 また水洗いであっても「タライに40度を限度として水で手押し洗い」という制限付きのプリント衣料も多く、それらは家庭用洗濯機でさえ使えない、というのが原則です。
プリントが剥がれずに薄くなっているケース
これは主に「昇華プリント」というタイプのプリントで起こる剥がれ方で、厳密には剥がれているのではなく、「染料が取れて行ってしまって薄くなった」という方が近いです。 これは摩擦されたり、60度以上の高温を当ててしまったり、または寿命によっても起こることがあります。
プリントの一部が変色しているケース
これはラメプリントなどに起こる現象ですが、プリントのラメ色を表現している染料が化学薬品やドライクリーニング溶剤などと化学反応を起こすことで発生します。 溶剤の影響でプリントの糊が剥がれたりもします。
生地を取り外す
最初の工程が生地をほどいて布一枚の状態にすることです。 こちらがそちらの状態。 生地を取り外すのはプリントをするときに、そのままだとプリントが出来ないからですが、他にもどのような状況の時に、事前に洋服をほどく必要があるでしょうか?いくつか例をご紹介しましょう。
プリントの下にボタンやボタン穴がある場合
「プリントの下」と言うと具体的な状況が掴めないかも知れませんが、要は、プリントを新しくやり直す場合、その下には平らな状態になっていないといけないのですが、ボタンやボタン穴があると平らにならないため、そういう時にもボタンを取り外したり、ボタン穴のある生地をほどいたり、という必要があります。
プリントの下に縫い目がある場合
プリントがしてある真下にライナーや裏地の切り返し(縫い目)があっても、新しいプリントをする場合には問題です。 「縫い目ぐらい・・・」と思うかも知れませんが、縫い目があるということは布を折り返してつなぎ合わせているので、布2~3枚以上の厚みがある分、段差はかなり大きいのです。
プリントの下に袖やフードなどがある場合
ボタンの存在や縫い合わせの存在以外に、「洋服自体」が新しいプリントをするときに邪魔になることもあります。 それはプリントの位置が「肩」だったり「縫い付けフードに近い位置のエリ」だったりすると、机に置いたときに袖ぐりやフードが邪魔になって平らにならないケースです。 こういった場合、時には「袖をほどく」「フードを取る」などの対策が必要になります。
プリントの周囲にファスナーやヒモがある場合
これも全く同じ理由ですが、ファスナーがあったら下が平らにならないですし、フードのフチのように、中にヒモが通っている部分の上にプリントがあった場合も平らにならないので、これらを取り外す必要があります。
データ作成工程
次の工程がこちらのように、新しいプリントを作るためのデータを作る工程です。 作成の際のポイントも解説しています。 プリントにはさまざまな図柄がありますが、データもその内容によって種類が異なります。 よく洋服に使用されるプリントとそのデータ、およびそれらの特徴についてご説明しましょう。
ブランド名などの無地のプリント
最近、モンクレールなどの高級ブランド品によく使われるパターンのプリントです。 こういったプリントのデータは外形の輪郭だけ作成して、実際のプリントの色は材料をその色にすることで実現します。
写真などの解像度の高いプリント
モンクレールのプリントで「地球の写真」のプリントがありますが、このような高解像度のプリントの場合、データもかなり解像度の高さが求められます。 そのためのスキャン機材なども対応した大きさや解像度が求められるのが特徴です。
線が細いデータ
こちらも解像度の問題もありますが、データを作成する上でプリントにした場合に目的の太さや色になるかどうかを検討しながら作る必要があります。 細すぎると色がキレイに発色されなかったりするからです。
古いプリントを全て剥がす
次の工程は「剥がれかけたプリントを全て剥がす」工程です。 これがプリント復元で最も大変だと言えます。 詳しくはこちら。
プリントを全て剥がし終える
ようやく全部のプリントを剥がし終えたのがこちらです。 いやぁ・・大変でした。 プリントの剥がれ方にも、種類によって特徴があります。 どのようなものがあるのか?ちょっといくつかご紹介しましょう。
シールのように「ペリッ」っと剥がれるもの
これは樹脂系、転写系のプリントで起こる剥がれ方ですが、プリントの糊が寿命で弱くなって、貼り付いている樹脂のシートがそのままの状態で剥がれてくるものです。 逆に言うと、全部剥がすのは比較的簡単です。
絵の具のように溶けて周りに染み出すもの
これは染料系のプリントで起こる現象ですが、剥がすために使用する薬品で染料が溶けて液体に戻ってしまい、周りに染み出すので、それらもキレイに取るのは大変苦労します。
細かい粉のようになって取れていくもの
これはかなり古くなった樹脂系のプリントで起こる現象です。 古くなったために樹脂が硬化しているため、取ろうとすると砕けて細かい粉のようになるのです。 こういった場合もキレイに取るには粉になって周囲のミシン目に入り込んでしまったものを除去せねばならないので、大変手間がかかります。
生地にプリントし終えたところ
こちらがプリント貼り付け部署から戻ってきた生地です。 キレイにプリントされているところをご覧ください。
モンクレールのプリント修理の完成
こちらが完成したところです。 生地ほどき、データ作り、プリント剥がし、プリント作成、貼り付け、生地の縫い直し・・・と多数の工程を経て完成した苦心の作をご覧ください。 さて、プリントには今回ご紹介したもの以外に、非常にたくさんの種類があります。 今回の記事の最後に代表的なプリントの種類をご紹介しましょう。
ラバーシート
最近、高級ブランドでも多用されている、無地のブランドロゴのみ、という感じのプリントでよく採用されている方法です。 比較的耐久性が高く発色がいいのでデザイン性が高いです。 細かい文字は苦手で写真などのプリントが表現出来ないデメリットがあります。
DTF
ダイレクト トゥ フィルムの頭文字を取った印刷方法で、透明なフィルムにプリント柄を印刷し、それを衣類に圧着させて印刷した染料だけを衣類に貼り付けるプリント方法です。 写真などのフルカラー・高精細な図柄にも向いていて大変便利なプリント方法ですが、印刷コストが高めです。
昇華プリント
フルカラーで大変精細な写真や図柄もプリントできる方式ですが、基本、白のポリエステル生地でないと転写できないのがデメリットです。耐久性は非常に高いです。
発泡プリント
発泡スチロールのような形状をしたプリントです。 立体的な造形が特徴ある面白い技法ですが、デメリットとしては着用やクリーニングで表面の塗装が剥げたり、発砲がつぶれてくることがあることです。
ラメプリント
きらびやかなラメを材料としたプリントです。 シートを加工して出来たプリントに比べて大変おしゃれな雰囲気を演出できるプリントですが、着用やクリーニングによってラメ部分の剥離を起こしたり、薬品で変色したりするリスクがあります。
金箔・銀箔プリント
豪華絢爛な印象を与える金や銀の箔プリントは、衣類のイメージをガラリと変える逸品です。 デメリットは着用やクリーニングで箔が取れたり、脱水で折り目が出来たり、薬品で変色したりするリスクがあることです。
シルクスクリーン
専用の染料を用いてかなり精細な図柄もプリントできる技法で、一度版を作成すれば量産できるプリント方法です。ですが、この版の作成にコストがかかり、フルカラーを表現するには版を4枚必要とするなど、一枚だけのプリントには不向きです。
フロッキープリント
ベルベットのような見た目と手触りが特徴のプリントです。 こちらも大変高級感がアップするプリントですが、一方、着用やクリーニングによって表面の起毛が取れて来たり、寝てしまったりするリスクがあります。
メタリックシート
金属のような見た目を演出できるプリントです。 こちらも大変豪華な印象を衣類に与えることができますが、着用やクリーニング、または薬品などの影響でスレ・折れ・変色を起こすリスクがあります。





