モンクレールの剥がれたプリント直し
トーア復元研究所で頻繁に依頼されるものの中に「剥がれたプリントを直して欲しい」というものがあります。 特にモンクレールやカナダグースなどの高級ダウンに施されたプリントは剥がれてしまうと、そのブランド価値自体がかなり棄損されるので、ご依頼主の切実なご希望は察するに余りあります。 今回はそのプリント直しのケースで「モンクレールのジャンパーに付いていたプリント」を直す工程をご紹介しましょう。
ご依頼主は神奈川県のクリーニング屋さん
今回は神奈川県のクリーニング屋さんからのご相談でした。「洗ったらモンクレールのダウンジャンパーに付いていたプリント文字が剥がれてしまったんですが、直りますか?」というお電話の後、ご依頼品が到着しました。
開けてみましょう。
これはトーア復元研究所では、もう数え切れないほどプリント剥離を直してきた典型的なモンクレールのダウンジャンパーです。 またこのタイプが最もプリントが剥がれてお困りのご依頼主が多い、ということでもあります。
プリントの種類
ではこのプリントを直す工程をご覧に入れましょう。 ちなみにプリントというものは素材や貼り付け方法によって、いろいろな種類があります。 ここでちょっとプリントの代表的なものの名称と特徴をご紹介しましょう。
ラバーシート
比較的耐久性が強いプリントですが、色が単色で既成色の10種類余りしかバリエーションが無いのがデメリットです。 一方、色の発色が良く、衣類には大変多く使用されています。
シルクスクリーン
耐久性が比較的高く、色数も豊富、ある程度細い線も実現出来るプリント方法ですが、作成するのに初期コストが高く、大量生産向きのプリントです。 写真などのプリントは不向きで、主にイラスト、文字が対象です。
DTF
フルカラーで微細な細い線や点も出せる非常に表現性豊かなプリントですが、比較的耐久性が低いのがデメリットですが、 写真などの高精細なプリントも特異な点は大きな長所と言えます。
フロッキー
ベルベットのような起毛素材で出来たプリントです。 非常に高級感のあるプリントになりますが、起毛が抜けたり、寝たり・・・といったことが起こりやすいので、着用および洗濯には注意が必要です。
金箔・銀箔・ラメ
キラキラした見た目が美しい金・銀の箔プリントやラメプリントは、大変奇抜な見た目を演出できるプリントです。 フロッキー同様、着用時や洗濯時の擦れで剥離しやすいデメリットがあります。
発砲プリント
発砲スチロールが膨らんだような見た目のプリントです。 とてもかわいらしいイメージのプリントが出来ます。こちらも着用や洗濯で発砲がしぼんだり、表面の塗装が取れたりします。
生地をほどいて布一枚の状態にする
最初の工程は、プリントされた部分の生地をほどいて布一枚の状態にする作業です。 その理由はこちら。 今回のようにプリントを直すために、事前の作業を伴うことがあります。 その例をいくつかご紹介しましょう。
プリントの裏側に造作があるケース
例えばプリントがされている部分の裏側にファスナーがあったり、ボタンやドットボタンがあったりすると、そのままプリントをすると、それらのものが邪魔になってプリントがしっかり付かず、剥がれてしまうので、こういったものは事前に取り外す必要があります。終わってからまた元通りに戻すのです。
プリントが剥げるときに周囲にカスが貼り付いてしまったケース
これは主に染料を用いたプリントの場合ですが、プリントの染料が溶けたりスレたりした結果、回りにくっついてしまったケースです。 こういう場合、プリントをやり直す前に「プリントのカスの染み抜き」が必要になります。
プリント周辺が汚れている場合
プリントがされている分部の周りが汚れていると、これまた厄介です。 なぜならプリントを剥がす際に薬品を使用すると、汚れが極端にキレイになってしまい、直したプリントの周りだけがキレイな状態となって、見た目がよろしくないからです。 また薬品を使わなくても、プリントが貼り付けられている場所だけは汚れが付いていませんから、やはりプリントの跡がそのままキレイな状態になり、その上から新しいプリントをした場合、ちょっとでも位置がズレてしまうと、見た目がおかしなことになってしまいます。
プリント貼り付け部門から戻ったプリント
実際にプリントを行っているのは地方の部署です。 新しいプリントをして出来上がった布はこちらのように、郵送で東京のトーア復元研究所へ戻って来ます。 なお、現在はトーア復元研究所の東京本部で主要なプリント設備は常備していますので、この当時に比べると値段も安価に、納期も飛躍的に早くなりました。 それ以外のプリントも、現在は都内近郊の部署にて行っておりますので、この当時と比べると部署間のコストや納期も圧倒的に安く、短くなっています。