剥がれたプリントを直す
ご依頼主は神奈川県のクリーニング屋さん
今回は神奈川県のクリーニング屋さんからのご相談でした。 「洗ったらモンクレールのダウンのプリント文字が剥がれてしまったんですが、直りますか?」というお電話の後、ご依頼品が到着しました。
開けてみましょう。
見ると、これまで何度も目にしたモンクレールのダウンジャンパーです。 一方、モンクレールのダウンジャンパーでプリントが施されているものは、
〇フード
〇前立て
〇背中
〇エリ
など、実に多くのバリエーションがありますから、そのそれぞれでプリントの修復方法が異なります。 今回のその内の一つの方法をご紹介しましょう。 ちなみにクリーニング屋さんであっても洗濯中にプリントが取れてしまうということはあります。 その原因について、考えられることをいくつかご紹介しましょう。
ドライクリーニングしたり乾燥機に入れたりした場合
プリントを施された衣類は必ずと言っていいほど、「ドライクリーニング禁止」「乾燥機禁止」と洗い方表示には書いてあると思われます。 それほどこれらの作業はプリントを剥がす方向に影響を与えてしまう作業と言えます。 それでも購入間もないうちは、まだ剥がれないこともありますが、寿命や着用による影響が加わると剥離の危険性は大変大きくなります。
着用によって既に剥がれる直前状態にあった場合
このように「現在はまだ剥がれていないが、クリーニングによって剥がれてしまう」ような状況にあるプリントは、たとえメーカーの指示通りに「容器に入れて手押し洗い」したとしても剥がれてしまうことがあり、これはクリーニングのやり方が悪い、とは言えないケースでしょう。
アイロンなどを当ててしまった場合
クリーニングにおいて洗濯中だけでなく、仕上げの工程もプリントは注意が必要です。 特にアイロンや熱プレス機のような高温の仕上げ作業機械でプリントは簡単に剥がれてしまいます。 しかも運が悪いとプリントのノリやプリントの素材のカスがプレスした際に周囲にくっついて二次被害を出すこともあり得ます。
プリントの寿命による場合
プリント自体にも寿命があります。 プリントはプリントの素材自体の樹脂と、それを衣類に貼り付けるノリに分かれますが、ノリにも接着性能に寿命があって、特定の年月(多くは3年程度)すると接着が弱くなってプリントが剥がれてきますし、プリントの素材自体もスレや摩擦、太陽光などによって劣化することによって分解・褪色・剥離をしてくるものです。 そしてそれらは着用条件、洗濯条件による影響で長くなったり短くなったりします。
プリント剥離部分の確認
こちらが剥がれたプリント部分です。 このタイプのモンクレールでは典型的な剥がれ方と言えます。 そしてトーア復元研究所ではこれまでこのタイプのプリント剥離も相当な数やってきましたので、今回もそのノウハウを生かして剥離を直していこうと思います。 プリントの剥がれ方にも素材の特性によって、いくつかパターンがあります。 その例をご紹介しましょう。
剥がれた部分がだんだん薄くなっていっている場合
この「だんだんと薄くなっている」剥がれ方というのは、「摩擦」「スレ」によるものがほとんどです。 クリーニング処理においても摩擦やスレは起こりますが、プリント文字全体が薄くなっている場合はともかく、部分的に薄くなっている場合は「着用時のスレ」である場合がほとんどです。
プリントの生地をほどく
今回はプリントがされた部分の生地をほどかねばなりません。 その理由はこちら。今回の事前に生地をほどく、という作業以外にも、プリントを直すために事前準備が必要なケースがあります。 いくつかをご紹介しましょう。
プリントの下に縫製などがある場合
プリントがされている分部の裏側に裏地のステッチやボタン、ドットボタンなどが施されている場合、そのままプリントをすると均一にプレス出来ないので、うまく貼り付かなかったり、貼り付いたとしても、すぐ剥がれてしまったり・・・ということが起こるので、これらのステッチ、ボタン、ドットボタンは先に取り外しておかないとなりません。
衣類が汚れている場合
プリントを新しくする場合、大体その周囲に薬品を使用するのですが、衣類が汚れている場合、その薬品でプリントの周囲だけがキレイになってしまい、非常に見苦しい状態になることがあります。 なので、こういう場合は全体の汚れ落としを先に行わなければなりません。
持ち主が手を加えている場合
あるご依頼主は、剥がれたプリントを直そうとして接着剤を塗布しましたが、結局うまく貼り付かなかった上、接着剤の跡が残ってしまいました。 こういう場合、接着剤の跡が、新しいプリントの貼り付けにおいて邪魔になるので、先に染み抜きをしなければなりません。 しかも接着剤の跡というものは非常に取れにくい部類のもので、最悪取れなければ諦めるよりありません。
新しいプリントの貼りつけ
こちらが作成したデータで新しくプリントしたところです。 白地に真っ黒な文字がとてもよく映えます。 プリントをあしらった衣類は「見た目の派手なデザイン性」を求めてプリントを採用することも多いため、こういった「淡い色と濃い色」の取り合わせのデザインが多いように思えます。 そのデザイン性を最大限引き出せるように、プリントには実にいろいろな種類があります。 代表的なものをご紹介しましょう。
ラバープリント
高級ブランド品にも多用されている、耐久性が比較的高く、発色のよい材質のプリントです。 一方、色柄数が20程度しかなく、通常は無地のみなので多様なデザインには不向き、また1ミリ以下の細い線や点は構造上作成出来ないというのがデメリットでもあります。
シルクスクリーン
主に大量生産向きに使用されるプリントです。 いろいろなメーカーが出している染料を使うので色のバリエーションは豊富で、比較的繊細なプリントも可能ですが、最初に版を作る必要があり、1つ2つのプリントだけを作るのにはコストがかかりすぎるのがデメリットです。
DTF
フルカラーで高精細なプリントも出力可能な方式です。 写真などもキレイに再現出来ます。 比較的耐久性が低いのがデメリットと言えます。
発砲プリント
発砲スチロールのように膨らんだデザインのプリントです。見た目の珍しさが特徴ですが、クリーニングや着用によって発砲が取れたり凹んだりします。
ラメ・金銀箔
きらびやかなラメや金箔・銀箔のプリントです。高級感ひとしおなプリントで見た目の豪華さは素晴らしいですが、着用やクリーニングでラメや箔の脱落、変色などのリスクがあります。
フロッキープリント
ベルベットのような見た目が特徴的なフロッキープリントは、大変高級感を演出出来る特殊なプリントですが、発砲プリント同様、剥離や凹みなどが起こります。 特に洗濯において脱水は厳禁です。
生地を縫い直して完成
こちらがほどいていたプリント部分の布をジャンパー本体に縫い直して完成したところです。 プリント部分が新品になって、また何年か着続けられますね。 では最後にプリントされた衣類について、いくつか参考知識をご紹介しましょう。
プリントの寿命
一般的にプリントがされた衣類は3~5年程度が寿命と言われていて、それが過ぎると剥離・褪色などが起こり始めるようです。 ですがこれには個体差や着用状況、クリーニング条件などいろいろな要素が絡んで、それよりも長くも短くもなるようです。 そうすると実質的な寿命が自分の衣類の場合どうなるのか?というのは決められない、というのが実情です。 例えば前述のフロッキープリントなどは脱水も厳禁ですが、基本、洗濯機の使用も不可なことがほとんどなので、こういう衣類を洗濯機で洗ったら、即、駄目になる(見た目が変わってしまう)ことになるのです。
プリント直しの納期
プリントの種類がいろいろとあることは、これまでご説明して参りましたが、トーア復元研究所ではこれらのうちラバープリントとDTF系のプリントの設備を本社内に常設していて、これらのお直しであれば通常1週間~10日程度、早ければ3日ほどで直すことも可能です。 それら以外のプリントについては他の部署で施工する必要上、納期が2週間から長いと一カ月半ほどかかることもあります。
プリントを直せないケース
直せないプリントも存在します。 例えば元のプリントを完全に剥がさないと新しいプリントが出来ない場合です。 特に多いのが「ニット素材」にされたプリントのケースです。 また合皮の上にプリントをしている場合、一部の合皮は柔らかすぎて、プリントを剥がそうとすると合皮がつぶれてしまう、ということがあり、この場合も元のプリントの上に新しいプリントをすることが出来ないので、結果直せない、ということになってしまいます。